(その四)
【フロントブレーキケーブル】
次は、フロントブレーキケーブル(以後、ブレーキケーブル)の話しをします。
別の記事でも書いたことがありますが、この部品は『JA07型スーパーカブ』の数少ない『定期交換部品』の内の一つです。
『定期交換部品』とは、メーカーがその部品の持っている性能や性質を維持するために、メーカーが設定した『使用する期間』や『走行する距離』が経過したら、定期的に交換する事を指定した部品の事です。ちなみに、『JA07型スーパーカブ』のブレーキケーブルの交換時期は、『初回3年目、以後2年毎交換』となっています。
それ以外のJA07型スーパーカブの『定期交換部品』は、『エアクリーナエレメント』と『エンジンオイル』だけしかありません。
そうやって考えてみると、エンジンが空冷式のカブ吉くんのタイプでは、冷却水の交換も必要ありませんし、遠心式オイルフィルタロータという素晴らしい機構を使ってエンジンオイル内のスラッジや異物を分離してしまうので、通常のオートバイに付いているオイル・クリーナ(オイル・エレメントやオイル・フィルター等の名称で呼ばれている事もあります)もありません。ですから、当然その部品の定期的な交換もありません。ブレーキもクラッチも油圧式ではないので、ブレーキやクラッチフルードの交換もホース類の交換も必要がないのです。
これは、ある意味メーカーの耐久性への自信の表れと言っていいのでしょうか? もし、そうだとしたら、この三つの『定期交換部品』とタイヤやプラグなどの消耗品さえキチンと換えていれば、この『スーパーカブ』はどこまでも走り続けられるような気がして、なんだかワクワクしてしまいます。
確かに昔からスーパーカブを使っている人達に言わせると、『カブはオイルだけきちんと換えてりゃ~、一生もんだぞ~』なんていう話しを、よくしていたような気が致します。
それ以外に定期交換部品として指定させている『ブレーキケーブル』も、吉村さんに聞くと『カブの50ccや90ccに乗っているライダー達から、「何年使ったから交換してくれ」なんて言われた事は一度もねぇと思うなぁ~』という話しが聞けました。
また、毎日は乗るんだけど、距離はそれほど走らないという使われ方が多いせいなのか、そういうカブ達ではめったに『ブレーキケーブルが切れた』というトラブルで持ち込まれる車輛もなかったようです。
この時代のスーパーカブの扱いは、『壊れたら直す』というのが基本です。予防整備的な、事前の部品交換などはあまり行われていなかったというのが、本当のところなのかもしれません。
しかし『JA07型スーパーカブ』に関しては、ここのところ『ブレーキケーブルが切れた』という話しが、ちょこちょこ耳に入って来るようになりました。2009年6月の発売ですから、その時からすぐに走り始めたマシン達は、車齢としてはもう10歳になっているという事です
本来であれば、定期交換部品のブレーキケーブルは、きちんと交換されていれば既に4本目を使用している事になるはずなのですが、ジョニーさんのカブ吉くんをはじめ、まだ一度も交換をされていないマシン達も、ひょっとすると結構たくさんいるのではないでしょうか?
管理人としては、そうでない事を祈るばかりなのですが、ジョニーさんは、今年の冬支度整備の時に交換すると言っておきながら、『なんか、もう少し大丈夫そうだなぁ~』などと呟いて、見事に交換をスルーしました。そういうのを目の当たりにしてしまうと、管理人は非常に心配になってしまうのです。
まぁ、カブ吉くんのブレーキケーブルに関しては、ジョニーさんが定期的に無理やりケーブルのゴムブーツを外して給脂してしまうので、もう少し使えそうな気もしますが、これはあまり一般的な事ではありません。
普通は、こういう整備に興味のない方がほとんどのはずなので、もし一度も交換をされていないようでしたら、この機会に是非ご検討をして頂ければと思います。
それから、昔はあまりなかったブレーキケーブル破断のトラブルが、『JA07型スーパーカブ』になってからちょこちょこ聞こえてくるようになった事と関係するかどうか分かりませんが、先日、その話題でジョニーさんと吉村さんが興味深い話しをしていたので、ここで少しご紹介致します。
「吉村さん、なんだか最近インターネットを見てると、10万キロ超えて走っている07型カブ達が結構いるみたいなんだよねぇ~。『みんな元気に走ってるんだなぁ~』と嬉しく思う反面、『ブレーキケーブルが切れた』っていう話しもちょこちょこアップされるようになって、『あれっ? 昔はこんな話しあんまり聞かなかったよなぁ』なんて、ちょっと気になるんだよね……」ジョニーさんが自分の事のように吉村さんに話しかけます。
「おっ、そうなんだぁ。ジョニーみたいに頑張って走ってるライダー達が結構いるって事は、そりゃぁ凄い事だな~」吉村さんは相槌を打ちながら、さらに続けます。
「でも、さすがに今はワイヤーケーブルを使って動作するブレーキも少なくなって来ちまったから、レバー握った時の違和感に気付くライダーなんて、もうあんまりいねぇのかもしれねぇな……。50ccあたりからちゃんとステップアップしてきたライダーなら、一応ドラムブレーキの経験はあるんだろうけど、それでもたぶんそういう微妙な違和感は分からねぇと思うな~。ましてや、その上のクラスから乗り始めちまったら、カブ以外はだいたいが油圧ディスクだからな~、まずレバータッチの微妙な変化くらいじゃ~絶対分からねぇだろうからなぁ……。だけど、もうそういう事ならメーカーの指定するタイミングで定期的に変えていく事しか、方法はねぇのかもしれねぇなぁ~」吉村さんはそう言い終わると、難しそうな顔をしながらジョニーさんを見つめました。
ジョニーさんと吉村さんのこの話しからは、『スーパーカブ110』になってからは、昔以上に多くの走行距離を記録するマシンが増えたみたいだし、走行する速度域も高くなっているので、フロントブレーキへの負担が非常に大きくなっている事が伺えます。しかし、それを扱うライダー達のドラムブレーキの経験値はあまり多くはないようです。ここにも、またメンテナンスに関する別の問題が潜んでいるような気も致します。
1969年にドリームCB750Fourが発売されるまでは、世界のどこにも量産車でフロント・ディスクブレーキを装着したマシンはありませんでした。
それまでの国産最大排気量だったヤマハXS-1やカワサキW1Sなども、200~220kgの車両重量を持ちながらもフロントブレーキはドラムブレーキです。
初代スズキGT750にいたっては、CB750Fourがデビューした約2年後に発売されたにもかかわらず、ブレーキドラムの左右両側にそれぞれブレーキシューを持つという、凝りに凝った『ダブルツーリーディング・ドラムブレーキ』などという装備持って登場し、当時のライダー達を驚かせました。
ちなみに、ジョニーさんが免許を取得した時に東京府中試験場で使用されていた試験車は、『ドリームCB350エクスポート』というマシンでした。当然、前後ドラムブレーキの車両ですが、試験項目にある『時速40キロからの短制動』は、ジョニーさんの得意種目だったそうです。
話しが、また段々ずれて行ってしまいました。申し訳ございません。
いずれにしろ、まだ一度もブレーキケーブルを変えていない方がおられるようでしたら、ジョニーさんも今度の正月休みには『絶対に交換する!』と宣言をしておりましたので、是非この機会に交換をお考え頂ければ幸いでございます。
きちんとメンテナンスされたタッチの良いドラムブレーキには、ディスクブレーキでは感じる事が出来ない、捨てがたい味がありますからね……。
【スロットルケーブル】
このケーブルに関しては、カブ吉くんの使用状況を考えてみる限り、耐久性に問題はほぼ発生しないと思われます。
ジョニーさんは、スロットルの遊び調整をする時に、スロットルボディ側のワイヤーケーブルに若干のほつれを見つけたので、吉村さんに頼んでスペアケーブルを発注してストックをしていますが、ケーブルのほつれの進行はそのまま止まっているので、今のところ新しいケーブルへの交換予定はなさそうです。
皆さま、長々と『ハンドル廻り編』にお付き合い頂き、大変ありがとうございました。
その一からその四まで、いろいろな部品のお話しをして来ましたが、今回で『ハンドル廻り編』は、一応最後にしようと思います。
本当は、ウィンドシールドやびびり音対策など、まだお話ししたい事もたくさんあるのですが、また別の機会に譲りたいと思います。
次回といっても、いつになるかよく分かりませんが、次のカブ吉くんメンテナンスは、『エンジン廻り編』の予定です。
お楽しみに。
管理人