(その二)
2.エアクリーナ(※エアクリーナエレメント:2万キロ毎の定期交換部品)
昔からガソリンエンジンが調子よく回るためには、次の三つが大切であると言われています。
①良い混合気
②良い圧縮
③良い点火
エアクリーナは、この①に表記した『良い混合気』をつくるのに欠かせない構成部品となります。
カブ吉くんのステアリングステムのフレーム下に取り付けられたエアクリーナから吸入された空気は、次にスロットルボディに入り、そこでインジェクタから噴出された燃料と適切な割合で混ざり合い、『最適な混合気』として燃焼室に送り込まれます。
もう少し詳しく説明させて頂くと、皆さんもよくご存じだと思いますが、このエアクリーナにはケース内に『エアクリーナエレメント』という部品が装着されております。この部品は、エアクリーナケース内の吸入された空気の通り道に取り付けられており、大気中の塵埃をここで除去して『清浄な空気』のみをスロットルボディに送り込む仕事をしています。そして、そこで出来た『清浄な空気』は、スロットルボディに取り込まれるタイミングで各種センサ(吸気圧力センサ、吸気温度センサ、スロットル開度センサ)によって測定され、そのデータに基づいてインジェクタから噴出された燃料と合わさった『最適な混合気』をつくる為のとても重要な部品の一つとなります。
カブ吉くんの初代C100が走りはじめた昭和30年代と比べれば、現在の道路の舗装率は飛躍的に向上しており、土煙が舞い上がる中を走行する機会などは格段に減っている訳ですが、20,000kmを走行したカブ吉くんの交換された使用後のエアクリーナエレメントを見てみると、まだまだ結構な汚れが目につきます。しかし、大気中に存在する塵埃は、このように単純に目につくものばかりではありません。
特に塵埃の『埃』の部分に関しては、目視するのはほぼ不可能かと思われます。恐らく、そういう目に見えないものも含めて、エアクリーナエレメントにはたくさんの塵埃がびっしりと吸着されているのだと思います。
JA07型スーパーカブに装着されているエアクリーナエレメントのタイプは、ろ紙にオイルを浸透させたビスカスタイプのものが標準で装着されています。
このビスカスタイプのエアクリーナエレメントは、ドライタイプと違い、清掃等のメンテナンスは出来ません。それなので、基本的に点検も不要となります。メーカーの交換指定距離の20,000kmに合せて交換をします。
カブ吉くんは現在257,000kmを過ぎていますので、もう少しで13回目(260,000km)の交換となります。
ジョニーさんは、このエアクリーナエレメントに関して、エンジンの耐久性や性能を維持する事に影響を及ぼす重要な部品として考えています。ですから、汚れ方を見た目で判断して、使用する距離を延ばすようなことはしません。きっちり、20,000kmを使用した時点で交換します。
一部のマニアの方達は、性能向上を目指して?(ちがっていたら、ごめんなさい! )社外品の吸入抵抗の少ないものや、大容量の吸気が可能なエアクリーナエレメント(場合によってはエアファンネルのみで、エアクリーナエレメントはなし! )に交換をしたりする場合があるようですが、エンジンというのはエアクリーナの入口からマフラーの出口までが一つのものなので、一つの部品だけ変えてもバランスが崩れてしまうだけで、あまりいい結果につながらない事が多いものなのです。
それは、エンジンだけにとどまらず、サスペンションやブレーキのセッティング、フレームやボディの剛性アップ等も含めたすべての部分に当てはまる事になります。
そのマシンの、ノーマルの状態で持っているポテンシャルをきっちりと発揮させながら、尚且つ耐久性を損ねたくないのであれば、エレメント類(オイルエレメントを含む)は純正品を使用するのが一番いいとジョニーさんは考えています。
古い話しで恐縮ですが、故石原裕次郎氏の主演映画の『栄光への5000キロ』のモデルとなった、四輪のラリー競技で国際的にも有名な『サファリラリー』というのがあります。(現在は世界ラリー選手権からは外れてしまっていますが……)
その『サファリラリー』に何度も出場して、幾度となく総合優勝をしている日産ワークスの競技車のエレメント類は、すべて純正品が使用されていました。
前走車の巻き上げる土煙の中を疾走する競技車にとっては、エアクリーナエレメントの集塵力はとてつもなく重要な性能となります。当然、競技車両ですから出力の向上は規定内で可能な限り追及をしていかなければならないのですが、最も優先される事は5000kmのラリーをエンジンを壊さずに完走する事となります。
その頃、サーキットを走るレーシングカー達は、燃料を一杯食べる為には大量の空気を必要とする為に、エアクリーナエレメントの装着はしません。ソレックスやウェーバーのキャブレターに、本当に大きなゴミが入らなければいいとしか思えないような、粗い目の金網が付いただけのエアファンネルを装着しているマシン達が大多数でした。
エンジンに求められる耐久性は、目の前のレース(3~400kmくらいが多いのでしょうか?)を走り切る事だけとなります。そういうマシン達のエンジンは、1レース毎に全部バラされて、一つひとつの部品がチェックされ、使えない部品は交換されて次のレースの前に再び組み上げられます(レギュレーションによっては、そういう事が出来ない場合もあります)。一般に市販される車両や、グラベル(非舗装路)等の走行が想定されるラリー競技車などとは根本的な耐久性への思想がまったく違うのです。
いずれにしろ、定期交換部品をきちんと交換されて、ちゃんとメンテナンスを実施されているノーマル車は、全速度域でスムーズに走る事をジョニーさんは知っています。
メーカーがその車両を開発している時に、社外品のエアクリーナエレメントを使用してセッティングする事はありません。全て純正品が使用されます。
3.スパークプラグ
カブ吉くんのスパークプラグ(以下プラグ)は、5000km毎に交換されます。これはジョニーさんと吉村さんが、新車でカブ吉くんが走りはじめた時に、ジョニーさんのライディングスタイルを含めていろいろな状況を想定して決められています。
カブ吉くん(JA07型スーパーカブ)の指定プラグは、NGK製のCPR6EA-9SとDENSO製のU20EPR9Sの二種類になります。JA10型スーパーカブも同様ですが、JA44型スーパーカブは、どういう訳かNGKのCPR6EAー9Sのみとなっているのでお気を付け下さい(理由は分かりません。ごめんなさい……)。
プラグギャップは、いづれも0.8mm~0.9mmとなっています。
余談ですが、カブ吉くん(JA07型)には、オプション(高速を主体とした走行時)として上記の標準プラグより高速型のCPR7EA-9S(NGK)と、U22EPR9S(DENSO)という記載もサービスマニュアルにはあるのです。
この『高速を主体とした走行時』というのは、いったいメーカーはどこの場所を走る事を考えて設定しているのでしょうか? ジョニーさんも割合高回転を多用する乗り方をするので、もし標準の熱価でプラグが焼けすぎているようだったら高速型のプラグに変更をしようかと考えた時期もあるのですが、ジョニーさん程度の走り方では、いつも標準型で何の問題もなくきれいに焼けてしまうのです。ですから、本人は悔しがっていますが、高速型プラグに変更する事ができません。
いったい、この高速型のプラグはというのは、何処をどうやって走る人達が使う想定でオプション設定されているのでしょうか? なんだか、考えているだけで楽しくなってきてしまいます。
話しを戻します。
プラグの電極の消耗は、一般的な四輪車(普通車)の場合で1万キロ走行すると約0.1mm~0.15mm消耗していくと言われています。そして、電極の消耗がすすむとプラグギャップが広がり、火花が飛びにくくなって失火や異常燃焼、燃費の低下、エンジン出力の低下などの症状につながっていくと考えられています。
一般的な四輪車のドライバーが普通に運転する場合、実際に使用しているエンジンの回転域は何回転くらいを常用としているのでしょうか? 恐らく、現在の日本ではAT車が主流でしょうから、だいたい2000回転~3000回転の間にほぼ収まってしまうのではないかと予測されます。
では、二輪車の場合は一体どうなのでしょうか? 110cc単気筒エンジンのカブ吉くんを例に挙げてお話しを進めていきます。
乗り手であるジョニーさんは、スピードメータの表示誤差も考慮に入れて、だいたい指定速度(制限速度や法定速度を含みます)のプラス10km/hくらいを目安に走行する事が多いようです。運転歴の長いドライバーやライダー達は、その速度で走行している限り、まず取り締まりに遭わない事を経験則として知っています。
ちょっと特別な国道2号線の『岡山バイパス』や国道8号線及び7号線の『新潟バイパス』等の指定速度が70km/h以上の道路を除くと、一般道での実際の走行速度としては、だいたい30km/hから70km/hくらいの範囲で走行している事になります。
カブ吉くんの場合ですが、60km/hでは約5300回転、70km/hでは約6200回転くらいの回転数となります。それを、先ほどお話しした一般的な四輪車の常用回転域と比較してみると、ほぼ2倍くらいの高い回転数域でカブ吉くんは走行している事になります。
四輪車の場合であれば、1万キロで0.1mm~0.15mmの消耗も、2倍の回転数を常用しながら走るカブ吉くんでは、半分の5000kmでそういう状態になるという事です。そうやってプラグギャップが広がり、火花が飛びにくくなって失火等が発生すると、当然ピストンヘッド等にカーボンの堆積などが増える事が予想されます。
それらを踏まえた上で、エンジン性能の低下を抑えながら、長く安定して使用を続ける事を考えた結果が、カブ吉くんの『プラグは5000km交換』なのです。
しかし、過去に一度だけジョニーさんが交換するのを忘れて、1万キロ走ってしまった事がありました。
2015年の『九州ツーリング』の時です。この時のツーリング出発時のオドメータの表示は、『114,390km』でした。あと610km走行すると、本来はプラグ交換だったのです。
ジョニーさんは、ツーリング前日の4月29日に吉村さんのところでちゃんとオイル交換をしています。でも、プラグの事は完全に忘れていたようです。
この『九州ツーリング』は、9泊10日の行程で全走行距離3,835kmを記録する、カブ吉くんの過去最長ツーリングとなりました。
ツーリングを終えたカブ吉くんの帰着メータ表示は、118,233kmにもなっていたので、ジョニーさんは吉村さんと相談して、『1回だけ、1万キロ使ってみる』という、実験をする事にしました。
そして、いよいよ12万キロになるタイミングでエアクリーナエレメントと同時に交換されたプラグを見てみると、プラグギャップは1.1mm近くにまで広がり、中心電極と接地電極の両方とも丸くなってしまい、『これでは、火花を飛ばすのが結構大変だっただろうなぁ』と、想像するのに難しい事はありませんでした。
「やっぱり、1万キロは使っちゃダメだな」吉村さんは、誰に言うでもなく小さく呟きます。
ジョニーさんは、申し訳なさそうにカブ吉くんを見つめていました。
最後に、指定プラグである『NGK』と『デンソー』の燃費データを掲載しておきますので、興味のある方はご覧になって下さい。
ちなみに、現在のカブ吉くんのプラグは『デンソー』製が使用されています。これは、新車で装着されていたプラグが『デンソー』製であった事が理由です。
乗り役のジョニーさんは、どちらのプラグを使用しても大きな違いなどは感じられないと言っておりました(逆に感じたら、大変です!)。
NGK : CPR6EA-9S(3本分のデータです)
走行 15,103km 燃料使用量 253.07 ℓ
燃費 59.68km/ℓ(時期1月~9月)
走行 14,893km 燃料使用量 249.70 ℓ
燃費 59.64km/ℓ(時期7月~1月)
管理人
(その三)に続く