【 メインスタンド分解メンテナンス 】
【 スタッドボルト ヘリサート加工 】
皆さんこんにちは、スーパーカブ耐久チャレンジの管理人です。
5月の大型連休も終わった7日の日に、ジョニーさんはカブ吉くんのスパークプラグ交換の為に吉村さんのお店を訪れていました。
「ジョニー、それで5月の連休は結局何日仕事したんだ?」吉村さんが尋ねます。
「それがさあ、もっとあるかと思ってたんだけど、2日に丸の内で一日あっただけで、それ以外は全部休みになっちゃったんだよな~」ジョニーさんは少し不満げに返事をしています。
現役時代は5月の大型連休を利用して、仕事の調整がうまくついた時にはロングツーリングを楽しんでいたジョニーさんですが、退職してからは『もう今は、何も無理して混む時期に走らなくてもいいんだよ。走るのは連休が終わってからさ』と言いながら、アルバイトがある時は現在はそちらを優先するようになっています。
「そうか……、でも一日だけじゃ小遣いもあんまり増えなかったなあ」
「本当だよ……、去年の連休は何だかんだ言っても3日くらいはあったからね……。これじゃ、今日のプラグ代も払えないかもしれないな……」
いつものジョニーさんと吉村さんの会話が続いていますが、前回の交換から約5千キロを走行しているカブ吉くんのスパークプラグは、その後きちんと交換されているのでご安心ください。但し、料金がきちんと支払われているかは分かりませんが……。
吉村さんが他のお客さんの対応をしている間、ジョニーさんは何の気なしにカブ吉くんの交換されたプラグ周りを見ています。そして、ちょっとした異変に気付きます。
「あれ!? この前ちゃんと締めたはずなのに、スタッドボルトのフランジナット緩んでるじゃん……。何で?」
確かにようく見てみると、マフラーのエキゾースト部分をシリンダーヘッドに固定しているフランジナット(正式にはエキゾーストパイプジョイントナットと言います)の締付面(座面)に微妙に隙間が出来ています。
ジョニーさんは、カブ吉くんのビジネスボックスの中にある車載工具袋から12mmのスパナを取り出して、軽く締め直してみます。
車体に対して左側のナットはすぐに手応えがある状態で締める事が出来たのですが、右側のナットは締め込んでいっても一向に手応えが出て来ない怪しい感じです。
そこへ接客を終えた吉村さんが戻って来ます。ジョニーさんはすかさず吉村さんにスパナを手渡しながら、
「なんか変……、ちょっと締めてみて……」と、吉村さんに声を掛けます。
吉村さんは慎重にフランジナットを締め始めましたが、その顔がすぐに曇ります。そして、吉村さんは一度フランジナットを緩めて外し、スタッドボルト単体をシリンダーヘッドから取外しに掛かります。
吉村さんは、予想外に簡単に外れたスタッドボルトを手に載せながら、そのネジ部分のピッチの間に残る薄い金属片をつまんで、ジョニーさんの手のひらにそれをそっと載せます。
怪訝な顔をしているジョニーさんの手のひらに、吉村さんはピックアップツールの磁石部分を近づけていきます。
「……、くっつかない……。っていう事は、アルミだ……」ジョニーさんが呟きます。
そうです。スタッドボルトを埋め込んでいるシリンダーヘッド側の雌ねじの山がダメになって、その破片が出て来たのです。
カブ吉くんのこのダメになったスタッドボルトは、2015年10月に動きの悪くなったメインスタンドを分解整備しようとしていたジョニーさんが、マフラーを取り外す為に固着していたフランジナットを緩めようとして折損してしまい、その時に一度修理交換をしているスタッドボルトです。
その後も、いつの時期からなのかはっきりとしないのですが、再びフランジナットが固着し、ジョニーさんは頻繁にCRC5ー56等を吹き付けたりしていたのですが改善はせず、一時期からは固着したフランジナットとスタッドボルトが一緒に共回りをするようになっていました。
それが正常な事ではないのは充分に分かっているのですが、マフラーを脱着しなければならないような作業頻度はそれほど多くはないので、ついついそのままになってしまっていたのです。
しかし、それが不思議な事に、先月最終の日常メンテナンスを実施している際に、ジョニーさんがいつものようにCRCを吹き付けた後、12mmのメガネレンチを掛けて軽く緩めてみると、なんとフランジナットがすんなりと緩むではないですか!
もう、ジョニーさんは大喜びです。『これで、ここの所また動きが悪くなって来ているメインスタンドの分解整備がやっと出来るな~』などと言いながら、その為に随分前からストックしていた新品のピボットシャフトなどの部品達を引っ張り出す事をウキウキしながら考えていたのです。
それが、まさかまさかこんな事になろうとは……。ジョニーさんは目の前が真っ暗になっておりました。
「まあ、ジョニーそんなに落ち込むな……。ちゃんと手はあるから……」吉村さんが優しく声を掛けます。
「でも、カブ吉のスタッドボルトって一度修理してるし、またヘッド外さなきゃなんないじゃん……」
「ヘリサートすれば大丈夫だから心配するな。ただ、今うちにはM8のヘリサートキットはないから、ジョニー自分でネットで探して、値段はバラバラだけどM8のヘリサートキットとかリコイルキットっていうのが一杯あるから、ピッチ1.25のやつで、タップはパイロットタップじゃないやつを選んで買って持ってこい。止まり穴だからパイロットタップは使えないからな。安いやつで十分使えるって言ってたから、そんなんでいいだろう……、手伝ってやるから心配するな」吉村さんがいろいろと要点を教えてくれます。
その後、ジョニーさんと吉村さんはお店のパソコンで修理動画を確認したり、売っているキットを選んだりしながら、カブ吉くんのスタッドボルト修理の日程を調整します。
そして、キットを頼んでから来るまでに時間も少し掛かるので、修理をするタイミングはお店の混まない週明け11日、月曜日の午前中に決定します。
家に戻ったジョニーさんは、マフラーがいつでも外せるこのタイミングで、メインスタンドの分解メンテナンスを先にやってしまおうと考えて、それに使用する部品のチエックとその手順や作戦を考える事にします。
カブ吉くんのサイドスタンドは現在強化型のものが装着されていますが、その取付は純正サイドスタンドが固定されていたステップバーの穴と、スイングアームピボットボルトを利用した2箇所締めとなっています。
通常はこのスイングアームピボットボルトは、車体左側からマフラーが固定されている右側に向けて差し込まれているのですが、カブ吉くん場合、ドライブスプロケットカバーを外したりするメンテナンス頻度が割と多いので、このスイングアームピボットボルトがマフラー側からの逆差しに変更されています。
理由は、強化サイドスタンドの本体自体がドライブスプロケットカバーを上から押さえつけるような形で装着されているので、このカバーを外す為には強化サイドスタンドのスイングアームピボットボルトの取り付け部分を一度外してやり、サイドスタンド自体を少しずらしてやらないとドライブスプロケットカバーが外せないというのがその理由となります。
しかし、11日のスタッドボルト修理の作業では最初にマフラーを外さなければならないので、ここでスイングアームピボットボルトが逆差しになっていたりすると全部抜かなければならず、いちいち手間が増えるだけです。
そのような訳から、スイングアームピボットボルトは一度正規の車体左側方向からの差し込みに戻し、サイドスタンドもメインスタンド分解メンテナンスをする時には車体を支えなければならないので、このタイミングで一度純正に戻す事にします。
8日の日は、カブ吉くんの日常メンテナンスを実施しながら、ジョニーさんは作戦通りにスイングアームピボットボルトの差し込む向きを変更し、サイドスタンドも強化型から純正に交換を済ませておきます。
翌日の9日、朝食を済ませたジョニーさんは整備用のツナギに着替えて、カブ吉くんのメインスタンド分解メンテナンスを始めます。
最初の方にも書きましたが、カブ吉くんのメインスタンド分解メンテナンスがきちんと行われるのは約11年ぶりの事となります。その時はスタッドボルト修理と一緒に吉村さんがやってくれていたので、ジョニーさん自身がこのメンテナンスを実施するのは初めての事です。その時の距離は12万9千キロだったので、実に23万6千キロぶりの分解メンテナンスとなります。
まず最初にエキゾーストのフランジナットを外して後、スイングアームピボットボルトのナットも緩めて外し、マフラーを知恵の輪のようにして引き抜いていきます。
次に、リヤブレーキ廻りのロッドの接続を外し、ブレーキライトスイッチスプリング、メインスタンドリターンスプリング、スプリングフックという順番で部品を取り外していきます。これでようやくピボットシャフトが抜けるようになりました。
そして、ピボットシャフトを抜き取り、ブレーキペダル、ブレーキロッドAssy、メインスタンドを取り外していきます。
抜き取られたピボットシャフトは錆だらけではありましたが、危惧していたスタンド自体の動きを悪くするような段差などは付いておらず、思っていたよりも状態は悪くありません。ジョニーさんはシャフトの錆を丁寧にヤスリを使って落した後、オイルの滲みこんだウエスを使って磨き上げ、全体にグリスを塗ってピボットシャフトを再使用する事にします。
恐らく、今まで一度も分解整備がされていなかったとしたら、こんなに良い状態ではなかったと思われるので、途中で一度手を入れてくれた吉村さんに感謝です。
ジョニーさんは次に、このピボットシャフトが入るフレーム側の穴の中の錆落しを始めます。CRCを吹いた後、ウエスを穴の中に突っ込み、何度も何度も丁寧に錆を落としていきます。そして、最後にこちらもしっかりグリスを塗布しておきます。それ以外にも、ブレーキペダルやブレーキロッド等も綺麗に磨き上げます。
一連の作業を終えたジョニーさんは、カブ吉くんの脇にちょこんと座り、綺麗になった部品たちを見つめて実にいい顔をしています。こういう時間がジョニーさんにとって至福の時だというのがよく分かります。
一息入れたジョニーさんは、メインスタンド、ブレーキ関係、マフラーという具合に一気に組み上げていきます。
分解メンテナンスが実施されたメインスタンドは、今までになかったくらいの軽快な動きをしています。スタンドを解除した時はもちろんですが、スタンドを掛ける時も今までの半分くらいの力で掛けられるようになりました。これには、ジョニーさんもびっくりです。カブ吉くんに付いている部品たちが正常に動くと言う事は、こういう事なんだというのを思い知らされる瞬間です。
週が明けた11日、ジョニーさんとカブ吉くんは朝から吉村さんのお店に登場です。
「吉村さん、とにかくメインスタンド凄いから、ちょっとやってみて!」
「なんだ、キットが来るまで時間があったからやったのか」
吉村さんはそう言いながら、カブ吉くんのメインスタンドを掛けたり降ろしたりしてみます。
「こりゃあ凄いな。ここまで動きが良くなるとはな……。ジョニー、いい仕事したな。これで今日スタッドボルトの修理が終われば、またカブ吉は完璧だな」
ジョニーさんがカブ吉くんのマフラーを外して、スタッドボルト修理(ヘリサート加工)が開始されます。
最初にお断りをしておきますが、今回の修理のやり方はあまり参考にならないと思います。何故なら、シリンダーヘッドを取り外さない状態で、そのまま修理してしまおうというジョニーさんと吉村さんの考えによる修理だからです。
普通の人がこの修理をオートバイ屋さんに頼んだら、お店の人はシリンダーヘッドを脱着して修理する事を前提に修理金額を提示すると思います。通常そのようにしなければ、修理への保証が持てないからです。この修理のスタートは、ドリルでスタッドボルトが入る穴にタップ下穴を開ける事から始まりますが、それがもし真っ直ぐに開かなければこの修理は失敗の可能性が一気に高まってしまいます。お店の人はそんなリスクは選択しないのが普通です。
ですから、今回のスタッドボルト修理は、主の整備士はジョニーさん、副が吉村さんという体制となります。全ての作業責任はジョニーさんが取るのです。
バイクリフトに車体後部をがっちりとベルトで締め上げられて、車体前部が浮いた状態で固定されているカブ吉くんの修理が始まります。
電動ドリルにヘリサートキットに入っている8.3mmのドリル刃をセットして下穴を開けていきます。先ほども書きましたが、この作業は修理の良否を決める大事なポイントとなります。一応、吉村さんがドリルを持ってはいますが、スタッドボルトの下穴の角度を確認して最終的に判断するのはジョニーさんの役目です。
ドリルの角度を決めた後は、ドリルがぶれないように二人で慎重に押さえながら下穴を開けていきます。
「うまいね~、完璧に垂直に入ってるね~」ジョニーさんが呟きます。
その後も、タップ立て、ヘリサート挿入、タング折り、と修理は順調に進み、大体一時間弱の作業時間で終了となりました。
エキゾースト部分がしっかり固定されたカブ吉くんを見て、ジョニーさんの顔にも安堵の色が浮かんでいます。
ここの所、4月のフロントフォークのオイルシール交換に続き、5月はスタッドボルト修理という具合に、長く走っている事による必然的なトラブルが発生しているような気がいたします。当然、耐久チャレンジとしては、そういうものを全て受け入れながら走り続けるというのが、基本的な考え方です。
ジョニーさんは、復調したカブ吉くんと5月後半に久しぶりに宿泊ツーリングに出る計画を立てていました。しかし、ここで更に思わぬ事態が起こります。
なんと、エンジンオイルがないのです。吉村さんにこの事を聞いてみると、『随分前から発注は掛けているけど、メーカーからは納期は未定の返事しか来ない』という状況だそうです。
ロングツーリングに出掛けても、途中でエンジンオイルの交換が出来ないのは考えものです。こんな状況では、たとえその店にオイルがあったにしても、それを一見のツーリンング客に出してくれるかどうかは分かりません。
「まったく、50年以上オートバイに乗ってるけど、オイル交換が出来ないなんて初めてだな……」
ジョニーさんはカブ吉くんのシートに手を置きながら、ボソッと呟きます。
管理人
2026年5月末日現在 全走行距離 366,719km
(5月走行距離 2,281km 月間平均燃費 62.70km/ℓ )
月まであと 17,681km