スーパーカブ 耐久チャレンジ

JA07型スーパーカブの耐久性を検証するブログです。

カブ吉くん メンテナンス(駆動系編)その三

(その三)

 

【ドライブチェーン及び前後スプロケット

 

 さあ、いよいよエンジンで発生した出力がクラッチからトランスミッションを介して、カウンタシャフトに取り付けてあるドライブスプロケットまでやって来ました。

 (その一)と(その二)でお話しして来たクラッチトランスミッションは、クランクケースの中に入っている部品なので、『理解はしているんだけど、なかなか直接目にする事がない部品なので、何となく親しみがあまり持てない』と、感じている皆さんが多かったのではないでしょうか?

 しかし、今回のテーマであるドライブチェーンと前後スプロケットの話しとなれば、点検や整備などでちょこちょこっとこの部品に触れる機会もあるはずなので、逆に一気に親しみが湧いて来るのではないかと思います。

 

 一般的にオートバイが走るためには、エンジンで発生した出力を後輪に効率よく伝えなければなりません。その大事な役目を担っているのが、このドライブチェーンと前後スプロケットになります。オートバイにとって、とても重要な部品です。

 当然、この重要な部品の一つであるドライブチェーン(※以降チェーンと記載)には、エンジン出力を後輪に効率よく伝達するために必要なメンテナンスがあります。それは、清掃と給油、そして適度な遊び(緩みや張りとも言います)の調整です。

 

 ここからは、実際にカブ吉くんの例をあげながら話しを進めていきたいと思います。

 まずは清掃ですが、ジョニーさんはあまりカブ吉くんのチェーンを真剣に掃除した記憶はないように思います。これは本当にスーパーカブの特徴の一つであるドライブチェーンカバーの恩恵に寄るところが大きいと思います。しかし、このカバーがあるからと言って、全くチェーンが汚れない訳ではないし、雨天走行時に水が入らないという訳でもないのです。

 カブ吉くん(JA07型スーパーカブ)の前のスーパーカブ達のドライブチェーンカバーは鉄製のものが装着されていましたが、カブ吉くんのタイプは走行騒音低減のために樹脂製に変更になっています(JA10型以降はまた鉄製になりました)。ですが、この樹脂製カバーのリヤホイール側の丸い開口部の大きさが、鉄製カバーの頃より大きくなってしまったため、雨量が多い中を走行するとチェーンカバー内には結構な水が入るのです。その事を忘れてチェーンへの給油を怠ると、メンテナンスのためにカバーを外した瞬間に、錆だらけのチェーンを見てびっくりする事になります。

 それでは、具体的にカブ吉くんのチェーン(強化ノンシールタイプ)の清掃の話しから始めていきますが、これは日常メンテナンスの記事にあるチェーンカバーが取り付けられた状態で行う整備ではなく、チェーンカバーを取り外して行う整備となります。

 まず、ジョニーさんはカブ吉くんの左側のチェーンカバーの前にどっかりと座ります。その位置は、座った状態で右手をナンバープレート方向に伸ばし、後輪をくるくる手でストレスなく回転させられる位置になります。

(何度も言いますが、この整備をする時は、絶対にエンジンを始動してギヤを入れた状態でやってはいけません。スプロケットに引き込まれて、指が簡単に切断されてしまいます。本当です、絶対やってはいけません)

 チェーンカバーを外し、目の前に現れたスイングアームの下側のチェーンを左手で持ったウエスで包み込み、チェーンの内側と外側のプレート面、チェーン上側、チェーン下側の順番で右手で後輪を逆転させながら汚れを拭き取っていきます。この時に錆びている部分があれば、ワイヤーブラシで擦って落としておきます。

 すみません……。ジョニーさんのチェーン清掃はこれでおしまいです。ジョニーさんは、チェーンクリーナー等を使ってチェーンの清掃をする事はほとんどありません。ごくまれに、錆がひどい時にCRC5ー56をちょっと使うくらいです。

 もっとも、カブ吉くんのチェーンがそんなに汚れていないというのもあるのかもしれません。ジョニーさんが現役の頃は、天候に関係なく一緒に走っていたカブ吉くんは、毎週末に必ず必要なメンテナンスを受けていました。今はほとんど雨の日は走らなくなってしまいましたが、それでも二週間に一回のペースでメンテナンスを受けています。

 この辺りは、使用(走行)環境によっても大分変ってしまいますし、給油にどんな種類の潤滑剤を使用しているかによっても当然変わって来てしまいます。

 カブ吉くんの現在のチェーンへの給油は、15Wー50のエンジンオイルだけで行われています。過去にはVG110のチェーンソーオイルと10Wー40のエンジンオイルのブレンドを作って、その比率を変えながらああでもないこうでもないと難しい顔をしていたジョニーさんですが、最近はロングツーリングの事も考えてすっぱりとやめてしまいました。

 エンジンオイルの15Wー50は、ギヤオイルでいうと#80~#90の粘度に相当するのですが、チェーンの給油後に拭き取りをしないで走行をすると、これが結構な勢いで飛び散るのです。ですから、給油をした後は丁寧に余分なオイルを拭き取らなければなりません。それでも、まだまだ多少は飛び散ります。しかし、ジョニーさんは『それがいいんだ。その時に汚れも一緒に飛んでくんだから』などと言いながら、『がっはっは!』と笑っているのです。確かにそうやって汚れも一緒に飛ばしてしまっているから、チェーン自体があまり汚れていないのかもしれません。何だか良くわかりませんが、ジョニーさん恐るべしです。

 しかし、そんなジョニーさんのやり方で、カブ吉くんに最初に付いて来た純正ドライブチェーンとスプロケットは24万キロまで持ってしまった(持たされてしまったとも言います……)のです。その交換時点でも、チェーン自体はそれほど伸びておらず、チェーンアジャスターの引き代はまだ3分の2以上を残した状態でした。

 給油のタイミングは概ね500km走行前後(油分が残っていればもっと長くても大丈夫だと思います)で、雨天走行などがあればその都度給油をします。チェーンへの給油場所は、チェーン内側と外側の内・外プレートが重なっている所(2ヶ所あります)と、内プレートに挟まれているローラーの両サイドの合計4ヶ所になります。その後は、細いマイナスドライバーを使って、ローラーを回転させながらローラーと内プレートの隙間にオイルを馴染ませていきます。

 日常メンテナンスの中にも書きましたが、とにかく一番大事な事は『絶対に油分を切らさない』という事になります。このようなメンテナンスを続けていると、チェーンは初期伸びが終わってしまうと、あとはほとんど伸びなくなります。

 では、そうであれば『いつまでも使い続けて大丈夫なのか?』という疑問も湧いてきますが、なかなかそうはうまく行かないようです。

 カブ吉くんは、2010年7月に走り始めてから現在までの全ての走行データが残っておりますが、それを見てみると年間平均燃費が10万キロを超えた2015年以降はどんどん燃費が下がり続けています。しかし、2020年に24万キロでチェーンとスプロケットを交換してからは、その年間平均燃費は一気に上昇に転じたのです。2015年と比較しても、マシンの走行距離が倍以上に増えて、尚且つカブ吉くんはまだマフラーから白い煙りを吐きながら、オイルを注ぎ足して走っている状態にも関わらず、2021年の年間平均燃費は過去最高の62.11km/ ℓ を記録しています。

 普通では考えられない事ですが、理由は明白です。カブ吉くんの純正チェーンは伸びこそほぼ止まっていましたが、10万キロ以降は横ブレがだんだんと酷くなってきました。この事をジョニーさんは知っていたのですが、致命的なトラブルの兆候がないので、『エンジン自体の性能ダウンもあるのかも知れない』と思い、ずるずると引っ張ってしまったのでした。

 チェーンは横ブレが出始めると、マシンを前方に進める推進力がどんどん落ちていきます。そして、走行抵抗も増え、燃費もダウンします。

 24万キロでチェーンとスプロケットを交換したカブ吉くんは、ジョニーさんも驚くほどの走りの力強さを見せたそうです。

 そして、そのチェーンは30万キロまで使われた後、現在のチェーン(同タイプ、強化ノンシールチェーン)へと交換されています。ちなみに、前後スプロケットは継続使用です。

 この交換は、チェーンの不具合等が発生しての交換ではありません。『2021年1月にシリンダーとピストン関係を交換して、往年の力を取り戻しつつあるカブ吉くんのエンジンに当たりが付いて来たタイミングで、いい状態のドライブチェーンを持ってきたらどうなるんだろう?』という、新たなプロジェクトになります。こちらも、そろそろデータが揃い始めたので、近いうちに近況報告の中で話しをしたいと思います。

 

 話しを戻します。

 ここまで、ドライブチェーンの話しを中心に進めて来ましたが、ここからはスプロケット(純正鉄製)の話しを少しだけしたいと思います。

 何故、『少しだけ』なのかと言うと、チェーンへの給油等のメンテナンスが充分に出来ていれば、スプロケット単体としてのメンテナンスはほとんどないからです。

 スプロケットを固定しているボルトも、きちんと締付が行われていればそうそう緩んできたりはしません。あとはスプロケットの歯の部分の摩耗をチェックするくらいですが、先ほど話した通りドライブチェーンへのメンテナンスがきちんと出来ていればスプロケットはほぼ減りません。ただ、チェーンを交換する時は、スプロケットも同時に交換するの事が基本です。ここら辺は、チェーンメーカーのホームページ等を見て頂ければ詳しく解説してあります。カブ吉くんが30万キロでスプロケットを継続使用にしたのは、単純にジョニーさんがケチっただけですが、あまり良い事ではありません。

 

 チェーンの遊び調整のやり方は、『22万キロ整備 詳細編 その一』に記載してありますので、そちらを見て頂ければ幸いです。

 最近のチェーン調整に関する動画は、きちんとアクスルシャフトを固定して作業するように解説してくれているので、そちらでも大丈夫だと思います。

 しかし、カブ吉くんのようにチェーン調整をする時に、チェーンアジャスターのナットを6分の1ほど締め込むと調整が出来てしまうマシンもあれば、チェーンがだるんだるんに伸びてしまってたくさん締め込まないとダメなマシンもあるかも知れません。そのようなマシンの場合は、アクスルシャフトが大きく動く可能性があるので、ブレーキパネルを固定しているトルクリンクのナットをちょっと緩めてやる(割ピンもナットも外す必要はありません)と調整がやり易いと思います。そして、チェーン調整が終わったら忘れずに再締付をして下さい。

 

【ダンパラバー】

 

 ドリブンスプロケットは直接リヤハブに取り付けられている訳ではありません。ドリブンフランジという部品を介して、間接的にリヤハブに嵌められています。その部分の衝撃を吸収する部品がダンパラバーです。

 この部品は、カブ吉くんでは過去に2回交換されています。一回目は、11万4千キロで交換しています。二回目は、チェーンと前後スプロケットが交換された24万キロの時になります。

 頻繁に交換をする部品ではありませんが、傷んで来るとスロットルのオン・オフの時にリヤから『カツーンカツーン』と音を伴って衝撃が伝わって来るようになります。チェーンの伸びにも影響のある部品なので、音が出たら交換して下さい。

 

 三回に分けて『メンテナンス 駆動系編』を書いて来ましたが、今回で一応終わりにしたいと思います。

 カブ吉くんを例としてお話しをしているので、シールチェーンについては一切触れていませんが、月に到着した後はひょっとするとシールチェーンの装着という事があるかもしれません。その時には、たっぷりとシールチェーンのお話しをさせて頂きたいと思います。

 また、スプロケットに関しては、『歯数の変更をするとどうなるのか?』というお話しもしたかったのですが、それはメンテナンスではないので、また別の機会にゆっくりとお話しをするつもりです。

 

 次回は、リヤ廻り編の予定です。

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