(その二)
それでは、次はフロントフォークのオイル交換の話しをしたいと思います。
ジョニーさんはカブ吉くんに乗る前は、1KH型(90年型223ccモデル)のセローに乗っておりました。オフ車に乗っているライダー達は大体がそうだと思うのですが、前後サスペンションのメンテナンスなどは自分でやられる方達がとても多いのではないかと思います。
フロントフォークについても、フォークオイルの交換から硬さの調整も含めて結構こまめにやられているような気がします。実際ジョニーさん自身も、セローに乗っていた時は短いときは2千キロで交換したり、長くても5千キロでは必ずフォロントフォークオイルの交換はしていたそうです。オフ車乗り達は、それをしてやるとまるで乗り味が変わる事を良く知っているのです。
それでは、走行している場所が違うので一概に比較は出来ませんが、オンロード車に乗っているライダー達はどうだったのでしょうか?
結論から言うと、ジョニーさんも含めて昔から乗っているライダー達は、そんな事をしていたライダー達は非常に少数だったような気がします。
ジョニーさんもCB350では1回くらいフォークオイルを変えた記憶がありますが、マッハⅢではやった記憶がありません。
昔のオンロード車に乗るライダー達は『そんな事やったって、たいして変わりゃ~しね~よ』などと言いながら、暴れる車体をねじ伏せながら、そこら辺をぶっ飛んで走っていたような気がします。気合と体力が勝負の世界です。
80年代になっても、コーナーが曲がり切れない時には、ガードレールを蹴飛ばしてマシンの向きを変えたりしていたライダー(すみません、漫画の話しです……)もいたようですし、サスペンションやタイヤの性能も今のように高くはなかったので、本当にあまり変わらなかったのかもしれません。
しかし、現在のオンロードモデルではまったくそんな事はないような気がします。昔のマシンのように、減衰力が不足気味な上に、すぐにオイル漏れが始まってしまうようなサスペンションではなく、きちんとしたサスペンションメーカーが製造した高性能なサスペンションが前後に装着されている事が当たり前になって来ています。
また、そういうマシンに乗るライダー達もそのサスペンションの性能を十分に引き出す為の知識や技術力をしっかりと持っているように思います。実に素晴らしい事です。そして、そのサスペンションセッティングの質や幅も、昔のマシンとは比べる事すらはばかられるような高度なレベルに達しているのだと思います。技術の進歩には、ただただ驚くばかりです。ライダーの能力の及ばない部分まで、どんどんマシンがカバーしてくれる時代になっています。
しかし、逆に言うとどこまでが限界なのか、ライダーにとっては非常に分かりにくくなっている部分があると言う事です。気が付いた時には、もうリカバリーが効かないところまで行っていたりする事もあるので、そういう最新の高性能マシン達に乗る時には、くれぐれも自分の技術を過信せず気を付けて乗って頂きたいと思います。
話しが脱線してしまいました、申し訳ございません。サスペンションの限界性能が比較的分かりやすいスーパーカブのフロントサスペンションの話しに戻りたいと思います。
まず、このJA07型スーパーカブのフロントサスペンションのストロークは、100mmに満たないほどしかありません。オフ車のフロントサスペンションストロークは、通常200mmを楽に超えるマシンがほとんどなので、カブ吉くんのストロークはその半分にも満たない訳です。
そして、フォークの中に入り減衰力を発生させるクッションオイルの量も、70ccほどしか入っていないので、これもオフ車と比較すると三分の一程の量となります。
ジョニーさんはこの数値を見た時に『メンテナンスをきちんとやっても、性能的にはきついかもなぁ……』などと考えておりました。
また、そのメンテナンスの時期もオフ車のように単独で頻繁に実施するのではなく、スーパーカブの場合『フロントタイヤを交換するタイミングで、同時にフォークオイル交換も実施する』という事を、ジョニーさんは吉村さんに伝えていました。
ただ、実はこれはジョニーさんがそう考えていただけで、吉村さんに言わせると『カブでフォークオイルを交換して欲しい』なんて事を言って来るお客さんは皆無だそうです。ジョニーさんは、そんな吉村さんをなだめすかして『フロントタイヤ交換毎にフォークオイルも交換する』という条件を吉村さんに了承してもらいました。
この耐久チャレンジのテーマでもある『過剰な整備等をする事無く、耐久性を見極める』という部分に、これは抵触しないのだという寛大な判断をしてくれた吉村さんに、ただただジョニーさんは感謝しています。
結局、第一回目のフロントフォークオイルの交換は、純正の225タイヤが予想外に減らなかった為に、36,000kmでようやく実施する事となりました。その後は、大体2~3万キロ目安でタイヤ交換とフロントフォークのオイル交換が実施されています。フロントタイヤを1本使い切るあいだ、100mmにも満たないサスペンションストロークを目一杯使って、70ccのクッションオイルはそれこそフル稼働状態です。
ステアリングステムのマウントボルトを緩めて外されたフロントフォークから排出されたクッションオイルは、大体いつも新品のきれいだったイチゴ色が真黒に変色して、粘り気がほとんど無くなってしまったようになっています。吉村さんはフォークスプリングを取り出し、フォークチューブを伸縮させながら、丁寧にそのオイルを抜き取っていきます。時間をかけてフロントフォークの中からその汚れたオイルを綺麗に排出した後、新品のイチゴ色の綺麗なクッションオイル(Hondaウルトラクッションオイル10W)を再び入れて行きます。
クッションオイルが交換されたカブ吉くんのフロントサスペンションは、今までとは動きが全く別物となります。ほんの70cc程のオイルを交換するだけで、この感覚が蘇る事が感動的ですらあります。
吉村さんのお店を出て後、千川通りから中杉通りへと回り、阿佐ヶ谷を経由して青梅街道を新宿方面に向かって60km/hくらいで軽く流して行くと、カブ吉くんは路面の一つひとつの凹凸を実にしなやかにやり過ごして行きます。
前後のバランスも絶妙な感じで、サスペンションは実に細かく動いています。このフィーリングを一度味わってしまうと、もうフロントフォークのオイルを交換しないではいられなくなってしまうはずです。
是非一度もやられていないようであれば、お勧めのメンテナンスです。ご自分の『スーパーカブ』が、もっともっと大好きになってしまいますよ。
それでは、次はそのフロントフォークの中に入っている『フォークスプリング』の話しをしてみたいと思います。
2015年12月に実施した、カブ吉くんの五回目のフォークオイル交換の時に、吉村さんと前から一度測ってみようと話していたフォークスプリングの自由長を測定してみる事になりました。その時点での、カブ吉くんの走行距離は約13万3千キロです。
『じゃあ、測ってみるからね……』ジョニーさんは、スケールをフォークスプリングに近づけていきます。
『316.3mmが標準らしいからな、それと13万キロ走ったカブ吉のやつがどのくらい違うかだよな~』吉村さんも興味津々です。
『大体こんな感じかね~、315.0mmくらいだな~』ジョニーさんが測定結果を吉村さんに伝えます。
『へぇ~、1.3mm縮んだだけか……、1万キロで0.1mmだな。全然、問題ないじゃねぇ~か! スプリングの使用限度は306.8mmだからな。ジョニー、あと80万キロは走れるぞ~』吉村さんは笑いながらジョニーさんをからかっていました。
昨年の12月にフォークオイルを交換した際に、久しぶりにフォークスプリングの自由長の測定を実施してみたのですが、結果は314.9mmでほとんど縮んでおりませんでした。測定時点での距離数は、213,938kmでした。スプリング自体の耐久性には、まったく問題がないように感じます。
次回計測は、このまま『耐久チャレンジ』が順調に進み、30万キロを越える事が出来たら、またその時に実施してみたいと思います。
また、2月にタイヤ交換をした際に発見されていたヒビの入ったダストシールも、このタイミングで交換となりました。こちらも、初めての交換となります。通常この部品はフォークカバーで微妙に隠れているので、目視点検もやりずらい場所ですが、ゴム部品には経年劣化があるので、たまには確認してみると良いと思います。
次は、ブレーキシューとブレーキケーブルのお話しをしたいと思いますが、このお話しはあまり皆さまの参考にはならないかもしれません。
スポーツバイクと違って、スーパーカブには様々な方が乗っていると思います。いつも時間に追われてせっかちに運転している人や、発進停止を繰り返すような都市部でしか乗らない人、のんびりとマイペースで淡々と走っている人など、本当にいろいろな乗られ方をされているのが『スーパーカブ』のような気が致します。
そういう意味では、ジョニーさんも一回当たりの走行距離は長いですが、走行中にフロントブレーキを酷使するようなライディングをしないライダーの一人かもしれません。決してリヤブレーキしか使わないと言う事ではなく、バランスよく前後ブレーキは使っているのですが、フルブレーキングをするような事はまずありません。絶えず先の状況に目を配りながら、交通の流れにのって、スムーズにいつも走っているのです。
その結果と言っては変ですが、新車から使っているフロントブレーキシューが交換されたのは、なんとカブ吉くんのオドメーターが16万7千キロを過ぎた辺りでした。
ジョニーさんは『20万キロまで持つかな~』などと言いながら、楽しそうに吉村さんと話しをしていたのですが、
『ブレーキアームのウェアインジケーターを見る限りじゃ、もう、そろそろだな』
と、吉村さんに冷たく言われてジョニーさんはがっかりしておりました。
どなたが乗ってもこんなに『純正ブレーキシュー』が持つ訳ではありません。必要な時には、しっかりとブレーキを掛けないと危険です。『たまたま、こんなライダーもいるんだ』くらいにお考え下さい。
次にブレーキケーブルですが、実はこれはメーカーの定期交換部品に指定されています。初回は3年目に交換します。それ以降は、2年毎に交換をするようになっています。JA07型スーパーカブの定期交換部品というのは、これを含めてエアークリーナエレメント(2万キロ毎)とエンジンオイルしかありません。メーカーが『きちんと交換して下さいね』と言っているのは、たったのこれだけしかないのです……。
実は、ジョニーさんはあまりこの件に触れたがりません。何故なら、カブ吉くんのフロントブレーキケーブルは、まだ一度も交換されていないからです。
しかし、ジョニーさんをかばうつもりはありませんが、これにはちゃんとした理由もあるのです。
第一に、純正のブレーキケーブルはワイヤーの露出部分が非常に少なく、グリスが封入された上にゴムブーツが付いているので、ほぼメンテナンスフリーとなっています。
第二に、カブ吉くんの場合1年の内、9ヶ月間はハンドルカバーが装着されているので、直接雨の影響を受けにくい。(湿気が抜けにくいという意見もあります……)
第三に、ジョニーさんは夏支度整備か冬支度整備のどちらかで、やらなくてもいいのに無理やりゴムブーツをめくって、給脂メンテンナンスをしてしまう。
以上の理由から、カブ吉くんのブレーキケーブルは、幸いにして良い状態がとても長く続いていると考えられるのです。
とは言いながらも、22万キロを過ぎてからは、ブレーキングをした時のワイヤーの動きに、若干の違和感を覚えるようになって来ています。
そんな事もあって、ジョニーさんは吉村さんに頼んで、すでに新品の純正ブレーキケーブルを入手しているので、恐らく今年は交換をするのではないかと思います。
最近、10万キロを超えるJA07型の個体も増えて来ているようです。それに伴って『JA07型スーパーカブのブレーキケーブルが切れた』という話しもチラホラ聞こえてくるようになりましたので、皆さまも充分にお気を付け頂ければと思います。
異常が起こる前には、必ずブレーキケーブルに違和感を覚えるはずです。いつもとブレーキレバーを握った時の感じが微妙に変わっていたら要注意です。
最後になってしまいましたが、ホイールベアリングの関係なども少しは触れておかなければならないかと思います。
結論から言ってしまうと、カブ吉くんのフロント廻りのベアリング類に関しては、一切問題は発生しておりません。これは『スーパーカブ』という、前後の荷重バランスがちょっと特殊な軽量マシンの恩恵であるとしか、考えられないのではないでしょうか。
JA07型スーパーカブは、車両重量93kgの内、前軸重はわずか40kgしかないのです。これがライダーが二人乗った状態の車両総重量としての前軸重となっても、少しだけ増えた56kgにしかならないのです。ちなみに、後軸重は147kgで、車両総重量は合計で203kgとなります。
バイク便で使用される事の多い250ccクラスのマシン達も、20万キロを超える頃になると、ホイールベアリングの粉砕トラブルが非常に多くなってきます。これは、やはり『スーパーカブ』と比較してしまうと、常に倍以上の重量負荷を受けながら走行しているマシン達の、悲しい宿命と言えるのかもしれません。
それでは皆さま、本日も長々とお付き合い頂きありがとうございました。
管理人