スーパーカブ 耐久チャレンジ

JA07型スーパーカブの耐久性を検証するブログです。

2021年5月 カブ吉くん 近況報告

【 バルブステムシール交換 】

 

 皆さまこんにちは、スーパーカブ耐久チャレンジの管理人です。

 

 今月の話題は、皆さまもひょっとしたら気にされているのではないかと思う(勝手に思っていてすみません……)2019年の3月から始まっていたカブ吉くんのマフラーからの排煙を伴う『オイル下がり』が、突然ですがついに修理がされましたというお話しをさせて頂きたいと思います。

 

 今年のジョニーさんのゴールデンウイークの予定は、幸いにして仕事もさほど立て込んでおらず、4月30日の金曜日と5月6日木曜日から7日金曜日を有給休暇扱いにしてしまえば、昨年とほぼ同様にその気になれば長距離ツーリングを実施する事も可能な連休を確保出来るような状況にありました。

 しかし、今の日本は昨年から続く新型コロナウイルスへの対応で、国を挙げての大騒ぎとなっております。そんな中、二回目の緊急事態宣言が解除されてからじわりじわりと増え続けていた陽性者数も、4月に入ると再び急激に増加を始めました。

 日本政府はそのような状況を受けて、陽性者数の増加が著しい大阪府京都府兵庫県、東京都に対して、三回目の緊急事態宣言を発令します。期間は、4月25日から5月11日までの17日間です。――5月31日時点では、緊急事態宣言の対象地域は1都9県が指定され、期間も6月20日まで延長されました――

 

 それでは、少し時間を戻して4月下旬の緊急事態宣言が発令された時点での、ジョニーさんと吉村さんのやり取りを皆様にご紹介したいと思います。

 

 

『あちゃ~、やっぱり出ちゃったよ……。こうなっちゃうと練馬区ナンバーのカブ吉は、今年もゴールデンウイークに遠くまで走りに行ったりする事は出来ないっていう事だよな~』

吉村さんのお店で、遅くまでテレビを観ながら油を売って遊んでいたジョニーさんがボソっと呟きます。

 

『まぁ、この対象になった4都府県の陽性者の増え方をみてると、こりゃあ宣言出ちゃってもしょうがねえかなぁって感じだからな~』

吉村さんの意見も、もう完全にあきらめモードになっています。

 

『確かに……。 俺も何となくだけど、今年もたぶん走れないんじゃねぇかなぁっていう気が、実はしてたんだよな……』

ジョニーさんは、そう吉村さんに話しかけながら、更に続けます。

 

『ねぇ~ねぇ~吉村さ~ん♡ そうしたらさぁ~、この連休中でカブ吉のバルブステムシールを換えるのダメかな~?』

ジョニーさんは、いつにも増して気持ちの悪い声を出しながら、カブ吉くんの整備依頼を吉村さんにお願いします。

 

『なんだ~、急にどうした? とうとう本格的にカブ吉の煙がひどくなってきたって事なのか?』

吉村さんは、突然のジョニーさんの問いかけに答えます。

 

『そうなんだよ~、先月あたりから急にオイルの減り方が早くなったみたいでさ……。この前、珍しくうちの小僧と夜に一緒に走る機会があったんだけど、やっぱり結構煙を吹きながら走ってたみたいで、後を走ってる小僧から「カブ吉はいつから2ストロークのメイトになったんだ」くらいの事言われちゃったからね~』

 

『はっはっは、ヤマハ・メイトか~、懐かしいな。隼人くんもいっちょ前の口を利くようになったもんだなぁ~、頼もしいじゃねぇか。まぁ、それで2ストロークのカブ吉は前と比べてどのくらいオイルを食うようになったんだ?』

 

『……、カブ吉は4ストロークだから……。でも、今月に入ってからは2ストロークの分離給油じゃぁないけど、5百キロくらい走ると200ccくらいは補給をしてたからね……』

 

『そうか……、結構食うようになったな。それで、最初に煙を吹き始めてからの距離は、どのくらい走ったんだっけ?』

 

『煙を吹き始めたのが2年前の3月で約21万9千キロくらいの時だったから、だいたい5万キロくらいだね……』

 

『まぁ、ジョニーだから2年で5万キロの距離を走っちまうけど、一般のあまり乗らないライダーなら、普通にオイル足しながらそれだけで当分のあいだ乗っていられそうな距離だからな……。まぁ、ここまでカブ吉は充分に頑張って走ってたんだろうし、ステムシールがダメになってからのオイルの減り方やシールの耐久性なんかもある程度分かったしな……。そうしたら、いよいよやってみるか~、連休中でも何とか部品は取れるからな……』

 

 吉村さんのその言葉以降、二人はカブ吉くんの整備のやり方をどのようにするかについて、詳細に打ち合わせはじめます。

 

 一般的に考えれば、27万キロ近く走って、尚且つ2年前からマフラーから煙りを噴いているスーパーカブであれば、エンジンをオーバーホールしてしまうのが通常の整備方法のような気が致します。

 マフラーからの排煙対策としての整備方法で一番費用対効果の高いやり方は、シリンダヘッドをアッセンブリで交換し、シリンダ、ピストン、ピストンリングも併せて交換してやる整備方法(一般的には腰上オーバーホールと呼ばれたりしています)が、ちょっとお金は掛かってしまいますが、これが一番効果的で、効率的と考えられます。

 でも、このような整備方法では、当然ダメになった部品を取り換える事は出来るのですが、それ以外のまだ正常に機能している充分に使える部品をも交換してしまう可能性が高くなってしまいます。

 また、ある程度の距離を走行して、調子が悪くなってきたタイミングで、その調子の悪くなった部品廻りをそっくり新品に交換するような整備の方法を取るのであれば、部品がある限りマシンは未来永劫走り続ける事が出来る訳ですから、そもそも耐久性の見極めなど必要もない事になります。

  そして、なによりもこのブログは『スーパーカブ耐久チャレンジ』であるいう事です。そんな安易な方法は選択しません(でも、実はそう思っているのはジョニーさんだけという話しもありますが……)。

 

 今回の整備仕様に関しても、ジョニーさんと吉村さんが話し合って最終的に出て来た結論は、『吸排気バルブの各バルブステムシールだけを交換する』という、本当に最低限の整備仕様となりました。

 ただ、4月から急に増えた煙りの量の原因が、排気バルブステムシールの不良が更に進んでしまったものなのか、それとも他に何か不具合が別に発生してしまったのかは分かりません。

 吉村さんはそのあたりを心配して、『4月になってから増えた煙りの原因が、ピストンリングの傷や偏摩耗だったりしなきゃいいんだけどな~』と、呟きます。

 ジョニーさんも全くその事を考えていない訳ではないのですが、昨年の7月から続いている好燃費が、今年になっても変わらずに続いている状況を考えると、傷や偏摩耗が性能に直接影響を与えてしまうピストンリングは、カブ吉くんの場合もう少し使えるのではないかと思えてくるのです。

 

『まぁ、これでうまい具合にオイルの減りが止まってくれりゃぁいいんだけど、ダメならしょうがないよね……。そうしたら、二度手間だけどもう一回開けてやるしかないもんね~』

ジョニーさんは、自分の手を汚す気があまりないので、楽観的に言い放ちます。

 

『あのな~、やるのは俺なんだからな~! でも、まぁ、いいか……、工賃だけは倍付けだからな~』 吉村さんが、ニヤリとしながらやり返します。

 

 今回の修理で使用する部品の金額は、全部で6千円くらいしか掛かりません。ほとんどが、少額な部品ばかりです。その中で一番高い部品でも、シリンダヘッドガスケットで968円(税込)ですし、今回の修理の主役であるバルブステムシールに至っては、数量は2個必要ですが、1個506円(税込)しかしないのです。ほとんどが、工賃に比重の掛かる修理作業となります。

 

『吉村様、お金は2万円しかありません。何卒、よろしくお願いいたします』

ジョニーさん得意の、『お金ありません!』の先制攻撃が久しぶりに炸裂です。

 

 だいたい、この手の整備をすると、工賃は1万5千円くらいが相場のようなので、ちょうどいいところなのかも知れませんが……。

 

『まったく、お前は……』と、言ったきり吉村さんもあきらめ顔です。

 

 その後は、正式に部品の発注を済ませて、修理を実施する日程も5月1日(土)に決定しました。

 

 

 結局、休もうと思えば休めたはずなのに、どいう訳か4月30日の夜遅くまで仕事をする羽目になってしまったジョニーさんは、翌日の朝10時過ぎに吉村さんのお店にカブ吉くんと一緒にやって来ます。

 

『吉村さん、おはよう! 部品もう来てる~?』

 

『おう、来てるぞ。そうしたら、カブ吉をここに入れてくれ。さっそく、取り掛かっちまおう』

 

 珍しく、ほかお客さんのマシン達が置かれていない吉村さんのお店の整備エリアに、ジョニーさんはカブ吉くんを滑り込ませます。

 吉村さんの手によって、レッグシールド、エアクリーナケース、スロットルボディ、油温センサ等の部品が次々とカブ吉くんの身体から外されていき、シリンダヘッドへのアプローチを容易にしていきます。ここから先は、今回の修理の本丸の部分にだんだんと近づいていきます。

 まず、シリンダヘッドカバーが慎重に外されます。そこには、長年のオイル潤滑で黄金色に輝くロッカアーム、カムシャフト等が整然と収まっています。

 

 吉村さんもジョニーさんも、この光景を見るのは2015年10月のスタッドボルトの折損交換で、シリンダヘッドを外した時以来となります。

 その時点での、カブ吉くんの走行距離は約12万9千キロだったので、あれから5年半で約14万キロ走った事になります。

 

 次に、吉村さんは、クランクシャフトを反時計方向に回し、フライホイールの『T』マークを合せて圧縮上死点を出し、カムスプロケットボルトを緩め、カムチェーンのシリンダ内への脱落に注意しながら、カムスプロケットを取り外していきます。

 更に、シリンダヘッドボルト、シリンダヘッドナット、プレートの順に取り外していけば、いよいよシリンダヘッドが外れます。

  今度はその外されたシリンダヘッドからロッカアーム、カムシャフトを取り外していくと、ようやくと今回の目的である吸排気バルブへのアプローチが可能となります。

 吉村さんは、バルブスプリングコンプレッサを使って慎重に排気バルブスプリングを圧縮していきます。そして、コッタを外しスプリングリテーナ、バルブスプリング(カブ吉くんはJA07後期型なので、アウターとインナーの2本のスプリングがあります)、バルブスプリングシートを取り外します。

 そして、吉村さんはバルブの動きがフリーになった状態で、今一度バルブとバルブシートの当たり面の位置関係をきちんと確認しておきます。

 全ての部品を新品にしてしまえば、こういう部分に神経を使わなくて良いのですが、再び同じ部品を使って組み上げるカブ吉くんのエンジンの良好なコンディションを変化させないためには、必ず必要な作業となります。

 それを確認し終えた吉村さんは、バルブガイドにバルブステムシールが取り付けられた状態で、ゆっくりとバルブを上下させてみます。吉村さんの表情が、その瞬間微妙に曇りました。

 

『ジョニー、やっぱりこれだろうな……』

吉村さんは、カブ吉の傍らで外された部品たちを綺麗に整理しながら、マイクロノギスを片手にカムシャフトのカム山の高さやロッカアームの寸法を測っているジョニーさんに声を掛けます。

 

 吉村さんは、ジョニーさんにバルブステムシールの中を何の抵抗もなくスポスポと動くバルブの状態を見せます。

 

『本来なら、バルブステムシールにしっかりと密着して、若干抵抗を感じるくらいの動き方をしなきゃならんのに、スカスカだろ……』

 

『本当だ……、もう完全に隙間が出来ちゃってるね……。これじゃ、オイル吸い込んじゃうよね~。でも、良かったわ……、予想がばっちり当たってて。これで、吸排気のステムシール交換してやれば、もう月までバッチリだよね!』

 

『まぁ、他がこのまま何でもなけりゃぁな……。なんせ、まだ月までは、11万6千キロもあるんだからな』

 

 そう言い終えると、吉村さんは吸気バルブ側の分解に取り掛かります。そして、両方のバルブステムシールを交換してからは、今度は一気に組み立て及び取付の作業に移っていきます。

 シリンダヘッドにすべての部品を再組付けし、あとは、そのシリンダヘッドをシリンダに取り付ける状態まで来たところで、突然吉村さんの手が止まります。

 

『ありゃ……。まずいもの見ちまったな……』

吉村さんは、シリンダのカムチェーンガイドトンネルからだらりと垂れ下がったカムチェーンの奥の方を無言で覗き込んでいます。そして、吉村さんの口から衝撃的な一言が飛び出します。

 

『ジョニー、カムチェーンガイドローラがねえぞ……』

 

『ええ~!? うそでしょう?』

それまでニコニコ顔だったジョニーさんの顔が、一瞬の内に引きつっていきます。

 

『ちょっと、こっち来て見てみろ』

 

『……、本当だ……。中心のカラーの部分しかないじゃん……』

 

何で気が付かなかったんだろう? ジョニーさんは、強烈な自己嫌悪に陥ります。

 

 ジョニーさんは、確かにここのところスロットルをハーフにした時に結構ジャラジャラとうるさいとは思っていたようですが、それは強化タイプに変更したドライブチェーンからの音だとばかり考えていたようです。また、そんな話しを吉村さんにもよくしておりました。

 

 結局、この日の修理はここで中断となってしまいました。あらためて、カムチェーンガイドローラを部品発注して、カブ吉くんが復活したのは連休の最終日である5月5日となりました。

 

 吉村さん曰く、このカムチェーンガイドローラがばらばらになって、カムチェーンが暴れてシリンダ壁を叩き、最終的にシリンダ壁に穴が開いてしまうというトラブルは、JA10型スーパーカブにたまに見られた事象となります。

 しかし、それ以外のスーパーカブに乗られている方々も、ジョニーさんとカブ吉くんのように距離を多く走るライダーは、特にお気を付けになった方がいいと思います。エンジンオイル交換の頻度にもよるようですが、予想以上にこのカムチェーンガイドローラの摩耗進行は早いという事でしたので……。

 

 修理から戻って来たカブ吉くんは、エンジンからのジャラジャラ音も無くなり、ジョニーさんと再び快調に走り続けております。

 また、今のところマフラーからの発煙もなく4ストロークスーパーカブに戻っているようなので、しばらくはこのまま様子をみながら『スーパーカブ耐久チャレンジ』を続けていきたいと思います。

 

 今月も、また大変長くなってしまいましたが、お付き合い頂きありがとうございました。

 

 ジョニーさんが、一生懸命にマイクロノギスで測っていた継続使用部品のデータ等は、現在並行して『カブ吉くんメンテナンス(エンジン廻り編)』をちょうどやっているので、そちらで詳細を報告させて頂く予定でございます。

 

 それでは、また来月お会いしましょう。

                                    管理人

 

 2021年5月末日現在 全走行距離 270,144km

(5月走行距離 1,884km 月間平均燃費 61.87km/ℓ )

月まであと 114,256km