スーパーカブ 耐久チャレンジ

JA07型スーパーカブの耐久性を検証するブログです。

2022年1月 カブ吉くん 近況報告

【シリンダー及びピストン関係交換】

 

 皆さまこんにちは、スーパーカブ耐久チャレンジの管理人です。

 

 昨年12月の近況報告の中にも一部記載がありましたが、カブ吉くんの発煙頻度が上がり、尚且つエンジンオイルの消費量が増えているという事と併せて、カブ吉くんのエンジン性能のバロメーターとなる国道413号線山伏トンネル手前の登り坂での失速を大きな問題と考えたジョニーさんは、年末に吉村さんにある提案をしました。

 

「吉村さん、この前の買い出しツーリングの時の、トンネル手前のいつもの登り坂でのカブ吉の失速ぶりを見ちゃうと、もうカブ吉のピストンリングは限界なんじゃないかな~って気がするんだけどどう思う?」

 

「そうだな~、その登り坂をいつも注意をしながら乗ってるジョニーがそう言うんだったら、本当にそうなのかもしれねえなぁ……」

 

「そうしたらさぁ~、30万キロ手前でちょっと残念なんだけど、一度腰上を開けてみようかなぁ……。それで、もしリングだけで済んでくれれば、それはそれで一番いいんだけどさぁ……。でも、やっぱりダメな時はピストンもシリンダーも出来るような準備を一応しといてさぁ……」

 

「まぁ、こればっかりは本当に開けてみない事には分らんからな……」

 

「吉村さん、正月休み中に出来れば一番いいんだけどなぁ……。あんまり時間ないけど、まだ部品取れる?」

 

「今のタイミングなら、まだ大丈夫だな……。そうしたらジョニー、シリンダーとピストンやリングなんか整備するのに必要なものを一式取っとくか? まぁ、ちょっと金額はいっちゃうけどな……」

 

「うん、問題ないよ。そうしてもらっていいかな? もし、万が一リングだけで済むような事があっても、どのみちいずれ交換しなきゃならないんだから、部品のストックにしちゃうからさ」

 

 二人は、こんな会話をしながらカブ吉くんの修理に必要な部品をピックアップし、抜けがないかを慎重にチェックをした後に発注を掛けます。

 部品代は、全部で3万2千円ほどとなりました。主役となる部品たちの金額を高い順番に並べると、シリンダーが21,120円で一番高く、ピストンは3,861円、ピストンリングセットが2,937円(全て税込)という感じになります。

 次に二人は、修理を実施する日程を決めていきます。何だかんだで忙しい吉村さんのお店の年末年始のスケジュールをいろいろと調整してもらい、カブ吉くんの修理は、年が明けた1月5日に実施する事となりました。

 

 

「おはよう~!」 2022年1月5日の9時30分に、ジョニーさんとカブ吉くんが吉村さんのお店に登場します。

 

「おはようジョニー、待ってたぞ。じゃあ、早速始めるとするか。そうしたらジョニー、カブ吉をここに入れて、まずレッグシールドとか外装を外しちゃってくれ」

吉村さんは、お店を開けた早々からカブ吉くんの部品を用意して、ジョニーさんとカブ吉くんが来るのを待っていたようです。

 

「了~解~! ほとんど暖機もしないで回転も上げないで走って来たから、エンジンもすぐ触れると思うよ」ジョニーさんは、カブ吉くんを指定場所に入れて、外装をすぐに外し始めます。

 

 その後は、いよいよ吉村さんの出番です。エキゾーストパイプジョイントナットを慎重にゆるめた後、マフラーを知恵の輪のようにうまくステップをかわしながら外していきます。そして、それ以外にもエアクリーナーケース等の修理の邪魔になりそうなものはどんどんと外されていきます。

 その次は、昨年の5月にバルブステムシールの交換で外されたシリンダーヘッドの番です。

 

「ありゃりゃ~、この前外した時にカーボンとか綺麗に落としてやったのに、ひどいもんだな~、こりゃ……」

 

吉村さんは、カーボンで黒々と汚れたシリンダーヘッドをジョニーさんに渡します。

 

「やっぱり、ここにきて急に調子を落としていたのがよ~く分かる状態になってるよね……。だって、この前ステムシール交換してから、まだ1万6千キロくらいしか走ってないんだよ……。きっと、急にオイルがたくさん燃えるようになっちゃってたんだろうなぁ……」

 

ジョニーさんは、すまなそうにカブ吉くんを見ています。

 

 そして、いよいよ今まで一度も外されたことのないシリンダーに吉村さんの手が掛かり、するするとシリンダーが水平方向からやや上に向かって滑っていきます。

 

 

「……、まぁ、こんなもんだろうな……」

 

 外されたシリンダーを手に持ちながら、ピストンスカートが擦れて薄っすらと縦傷が付いたシリンダー内壁を照明の角度をちょこちょこ変えて覗き込んだ吉村さんは小さく呟きます。

 また、シリンダーが外されて初めて姿を現したピストンは、ピストン側面の燃焼ガスの吹き抜けこそそれほど多くはありませんでしたが、一番下のオイルリングは完全に固着した状態になっているようです。

 

 ジョニーさんは、次々と取り外されてくる部品たちを、一つひとつ丁寧にウエスで拭き上げながら、マイクロノギスで計測していきます。今まで頑張って走って来たカブ吉くんの部品を、使えるものは少しでも残したいという思いがあるジョニーさんなのですが、その表情を見る限り、どうやらその部品たちの状態はあまり芳しくないようです。

 

「……、全部ダメだな……。シリンダーもピストンもリングも……、ピストンピンも全部大幅に使用限度を超えちゃってるわ……。吉村さん、みんな交換だ……」

 

 ジョニーさんは薄々は想像をしていたものの、ここまで大幅に使用限度を超えてしまった各部品の数値をみて、こんな状態で今まで走らせていたカブ吉くんに申し訳ない気持ちで一杯になるのでした。

 

「ジョニー、まぁそうがっかりするな……。常時6千回転前後で走行しながら、28万4千キロも大きな性能低下も感じさせずに走って来ている事自体だけでも、もうそれだけでとんでもない事なんだからな」 吉村さんは、やさしくジョニーさんに語り掛けます。

 

「……、本当だね……。カブ吉、十分に頑張ったよね……、凄いよね? だけど、こんなに消耗しているんだったら、もっと早く修理してやれば、カブ吉はもっともっと気持ちよく走れたんだよなぁ……」 ジョニーさんには、この結果にやはり少しの後悔が残るようであります。

 

 この結果を耐久チャレンジ的に分析すると、『マフラーから煙りが吹き始めたら、早めに腰上は修理を実施した方がいいですよ』という具合になるのでしょうか?

 エンジンオイルの管理がちゃんとされていれば、恐らくカブ吉くんのように、何もしなくても20万キロの距離を走る事が可能だと思いますので、皆さまも参考にして頂ければ幸いでございます。

 

 ちなみに、カブ吉くんのシリンダー及びピストン関係の交換までに走った28万4千キロというのは、運転時間に換算するとどのくらいになるのでしょうか?

 たぶん実際はこんなに速くはないだろうとは思いますが、仮に現在の距離まで走って来た平均速度を30km/hとした場合で計算すると、実に9480時間となります。それを、更に実際の走行に近づけるために、平均速度を25km/hまで落としてみると、なんとエンジン運転時間は、11,376時間にもなるのです。

 先月の近況報告のなかでも話題にしていた『はやぶさ2』のイオンエンジン4台(A、B、C、Dの呼称があるようです)の2021年末までの運転時間は、順番に6997時間、4698時間、9221時間、8943時間と発表されています。そして、同時点での打ち上げからの総飛行距離は、だいたい63億5千万キロぐらいではないかといわれています。

 もうカブ吉くんの走行距離とはあまり桁が違い過ぎて比較になりませんが、地球上で移動をし続ける為には、絶えず運転を続けなければいけないカブ吉くんのエンジン運転時間が、『はやぶさ2』のイオンエンジン1台の運転時間を恐らく超えているであろうという事だけでも、皆さまに知っておいて頂きたいと思うのです。そして、それって実はかなり凄い事なんだという具合に少しでも皆さまに感じて頂けると、ジョニーさん、吉村さんをはじめとする耐久チャレンジ関係者は、とてもとても嬉しく思うのでございます。

 

 

 さあ、そうこうしている内に、新しいシリンダーとピストンに換装されたカブ吉くんの前で、ジョニーさんと吉村さんはこんな会話を始めております。

 

「シリンダーとピストンの慣らしって、どのくらいの距離を走ればいいのかなぁ?」

 

「まぁ、新車の時と同じ1000キロ目安で充分だろ。ただ、クランクだとかミッションなんかの他の部分はもう当たりが付いちゃってるんだから、そんなに神経質にならなくっても大丈夫だぞ……」

 

「うん、わかった。まぁ、どうせ慣らしをやるんだったら、いつものやり方で高回転までストレスなく回るエンジンになるように頑張ってみるわ。でも、11年前は新車で走り始めたのが夏だったから、毎晩17号の旧道(国道17号線、中山道)で浦和、大宮、川越って内陸に走りに行ってたけど、今は1月だからちょっと寒いよね……。吉村さん、どこがいいかな~?」

 

「な~に言ってんだ、お前の大好きな三浦半島でいいじゃねえか。距離も200キロ弱あるし、街中から淡々と走れる海岸線の区間もあるし、エンジンの回転を上げたり下げたりしながら慣らしをするのに調度いいだろ」

 

「そうか~、確かに言われてみれば、本当にそうだよね。最近、全然行ってなかったからな~、以前はタイヤの慣らしなんかでもよく行ってたのにね~」

 

 結局、ジョニーさんは慣らし運転の名目で、今月は三回も三浦半島一周ツーリングに出掛ける事になりました。しかし、いつも感心するのですが、ここは何度走っても飽きる事のない本当に素敵な場所だと思います。

 そこに暮らす人々やサーフィンに興じる人達も含めて、人間と海との距離感がとても近い事が海岸線を走っているだけで伝わってくるなんていう場所は、そうそう無いような気がいたします。

 そんな大好きな場所を走らせて頂きながら、カブ吉くんはしっかりと慣らし運転をする事が出来ました。距離的にも約2000キロを走り、慣らし運転の段階的にも三分の二が終了している状況にまでなっています。

 エンジンオイルの交換もすでに二回済ませており、ぼちぼち最終段階の仕上げに入っていくタイミングとなります。

 シリンダー及びピストンの交換によるエンジンフィーリングの向上は顕著で、ちょっとした勾配のある坂道でのスロットルワークに対するエンジンの力強い反応に、ジョニーさんは本当に驚いているようです。

 

「ほぇ~、カブ吉~お前こんなに力があったんだな~。……、こんなんだったら本当にもっと早く治してやりゃあよかったな……」

 

 毎日乗っているが故に、その衰えに気付かぬ事もあるのです。そんな、自分の鈍感さをジョニーさんは本当に申し訳なく思うのです。

 

 そして、そんな往年の力を取り戻したカブ吉くんを、ジョニーさんはやや目を細めながら、黙って眩しそうに見つめているのでした。

                                  

                                    管理人

 

2022年1月末現在 全走行距離 286,433km

(1月走行距離 2,018km 月間平均燃費 59,27km/ℓ )

月まであと 97,967km