スーパーカブ 耐久チャレンジ

JA07型スーパーカブの耐久性を検証するブログです。

カブ吉くん メンテナンス(エンジン廻り編)その三

 (その三)

 

4.カムチェーンテンショナ関係

 

 1958年に登場した初代スーパーカブC100のエンジンは、空冷4ストローク単気筒OHV2バルブ、排気量49cc(内径:40mm×行程:39mm)というものでした。

 この『OHV(オーバー・ヘッド・バルブ)』のエンジン型式が6年間続いた後、1964年12月に主に耐久性、整備性、静音性、出力の向上を目的として、シリーズとして初めて『OHC(オーバー・ヘッド・カムシャフト)』エンジンを搭載したスーパーカブC65(排気量63cc、内径:44mm×行程:41.4mm)が登場します。

 そしてこのモデルは、二人乗りが出来るようにとC100のボア(内径)を2mm拡大したOHVエンジンを搭載して、約三年前の1961年8月から販売されていたスーパーカブC105(排気量54cc、内径:42mm×行程:39mm)の後継モデルにそのままなりました。

 このエンジンの大きな特徴は、スーパーカブとして初めて搭載される『OHCエンジン』はもちろんの事ですが、それ以外にもう一つとても重要なものがあります。

 それは、創業者である本田宗一郎氏の『変えるな!』という意思を忠実に反映し、設計・製造されているところにあります。

 このエンジンの外形寸法は、1958年に販売が始まったスーパーカブ初代C100(排気量49cc)の生産ラインがそのまま使えるように、同一の寸法で造られているのです。もちろん、エンジンのマウント位置も同じです。

 これは具体的にどういう事かというと、『OHVエンジンを積んでいるスーパーカブの購入者が希望すれば、そっくりそのままOHCエンジンに載せ替える事が出来る』と言う事になります。こんなオートバイは、この時代にほかに存在しません。今考えてみても、とんでもなく凄い事です。

 このエンジンの『OHV』から『OHC』への変更と、生産ラインを供用する経済設計の手法は、そのまま約1年後の1966年1月に90ccモデルであるスーパーカブC90(排気量89cc、内径:50mm×行程:45.6mm)へと引き継がれていきます。

  その後、新型OHCエンジンの生産も軌道に乗った同じ年(1966年)の5月に、いよいよ満を持してC100の後継車である『スーパーカブC50』が、OHCエンジン(排気量49cc、内径:39mm×行程41.4mm)だけではなく、新設計のニューボディを纏って登場します。

 50cc、65cc、90ccともに『OHCエンジン』を搭載したシリーズとなり、ここからスーパーカブの第二世代が始まりました。

 そして、1969年1月にはスーパーカブC65の3mmのボアアップ版であるスーパーカブC70(排気量72cc、内径:47mm×行程41.4mm)が登場して、ここからの約10年の間は、C50、C70、C90のスーパーカブシリーズとして、国民の生活を大いにサポートする活躍をいたる所で続けて行きます。

 

 この時点で、C50とC70のエンジンは行程41.4mmを基本とする同系列のエンジンとなっていますが、C90に関しては専用設計のエンジンを搭載していました。

 しかし、このC90のエンジンも1980年3月のモデルチェンジでは、C70のエンジンをベースに行程を8.1mmアップさせて排気量を85cc(内径:47mm×行程:49.5mm)と4ccほど排気量はダウンしてしまいましたが、同系列のエンジンとしてラインアップに加わっています。

 

 今まで皆さまに詳しい説明をした事はありませんが、本ブログのトップページの冒頭に『本来ならば、≪ スパーカブ ≫の原点である50ccや70ccモデルを使う事が正統なのかもしれませんが、……」という件(くだり)がありますが、その言葉の意味はこういう理由があったという事でございます。

 やはり、1964年に登場したスーパーカブとして最初の『OHCエンジン』の流れをくむエンジンで『耐久チャレンジ』を実施する事が出来れば、それが一番いいのだろうという考えは全くその通りだと管理人も思うのですが、いかんせんジョニーさんが最終的に日本一周に使用するマシンとして昔から決めていたのは『スーパーカブC90』でございました。そんな事情もあって、その後継モデルであるJA07型のカブ吉くんが、現在も一生懸命に月までの距離である38万4千4百キロを目指して走行を続けているという訳なのです。

 とは言いながらも、このスーパーカブC90の後継モデルであるJA07型スーパーカブ110に搭載されているエンジンは、排気量109cc(内径:50mm×行程:55.6mm)というもので、一見すると2007年で生産中止になった最終型のC90のエンジン(内径:47mm×行程:49.5mm)とは何のつながりもないように思えますが、実はさかのぼる事1966年にスーパーカブC90のエンジンとして最初の『OHC化(排気量89cc、内径:50mm×行程:45.6mm)』されたエンジンと同系列のエンジンなのです。

 このエンジンは、その後も1980年代にはタイホンダで製造されたマシンにストロークアップを施した上で搭載され、『ホンダカブ100EX(排気量97cc、内径:50mm×行程:49.5mm)』というモデル名で、日本でも一時期ではありますが、輸入販売されていた事もあったのでベテランのライダー諸氏は覚えていらっしゃるのではないかと思います。

 そして、その排気量97ccエンジンを更にロングストローク化させたものが、カブ吉くんに搭載されているエンジンになります。こういう風に考えてみると、この『耐久チャレンジ』の実施検証に選ばれているマシンが、JA07型スーパーカブ110のカブ吉くんであると言う事は、あながち間違っていないような気がなんとなくして来ませんでしょうか? どうですか? 今までの記事をじっくりと読んでみると、だんだんとますますそんな気がして来ているのではないですか? (しつこいですね……。すみません)

 

 さあ、今月は随分と『OHCエンジン』の歴史? に時間をかけてしまいましたが、ここから先は本題の『スーパーカブのカムチェーンテンショナ関係』話しに戻って進めていきたいと思います。

 大したデータではありませんが、参考までにカブ吉くんのカムチェーンテンショナ関係の整備記録を貼り付けておきましたので、ご覧になって頂ければと思います。

 

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 まず最初に、皆さまが一番気になるカムチェーンの音はなんでしょうか? やはり、冷間時の『ガラガラ音』や『ジャラジャラ音』ではないかと思います。

 カブ吉くんのカムチェーンの『ガラガラ音』が気になりだしたのは、2010年に走り始めてから三回目の冬を迎えた2013年2月頃でした。その時点での走行距離は、約6万2千キロです。

 カムチェーンの『ガラガラ音』は、以前からまったくしなかった訳ではありませんが、暖かい時期はあまり気になる事はありませんでした。しかし、気温の低くなる冬の時期には、朝の始動後に『ガラガラガラ』と、だんだんといい音がするようになってきます。この異音の原因はだいたい分かっているので、その原因になっている対象部品を交換してやれば、余程のことがない限り、以前の静かなエンジンに戻ってくれる事がほとんどです。

 整備記録を見て頂けると分かると思いますが、カブ吉くんは約24万4千キロを走行して、ようやく3回の整備回数となっているくらいで、そんなに頻繁に実施する整備にはならないような気が致しますが、ここでもやはり定期的なエンジンオイルの交換や、オイルレベルの確認などが実施されている事が大前提となります。

 その理由は、カムチェーンにテンションを掛ける為に、そのテンショナアームを押し上げるプッシュロッドは、テンショナスプリングだけの力で動いているのではないからです。そこには、エンジンオイルの力が必要となります。エンジンオイルの油圧が不足しているとプッシュロッド自体が充分にテンショナアームを押し上げる事が出来ないのです。寒い冬の朝のエンジン始動時の『ガラガラ音』は、まだ油圧が掛かり切らない為に起きている考えられます。

 交換対象の部品は少数で済みます。

 一つ目は、プッシュロッド先端の樹脂(ゴム?)部品です。この部品は、昔はアッセンブリー扱いで、単体で手配する事が出来なかったのですが、今は普通に手配が出来るようになっています。

 実際に、テンショナアームのお尻を押し上げているのはこの部品になります。金属のテンショナアームを押し続けるのですから、長い間に大きく凹んできてしまいます。そうすると、テンショナアームを押し上げる力が微妙に少なくなってしまうのです。

 次の部品は、テンショナスプリングです。

 ジョニーさんはカブ吉くんの1回目の交換を6万2千キロくらいで実施したあとは、21万2千キロまでやりませんでした。実際には、15万キロも走ってしまっていたので、2回目の交換の際は『ガラガラ音』がかなり大きな音で出ていたのですが、交換したテンショナスプリングの自由長を測定して、ジョニーさんも吉村さんもビックリしてしまいました。

 本来ならテンショナスプリングの使用限界は109mmに規定されているのですが、交換した際にカブ吉くんから出て来たテンショナスプリングは、自由長が105mmしかありませんでした。これでは、『ガラガラ』といい音が出てもしょうがありません。こんなに、メンテナンスをさぼってはいけません。

 これを反省して、3回目のカムチェーンテンショナ関係の整備は、ちょうど『ガラガラ音』が気になりだした約24万4千キロで実施する事になりました。

 今回は、試しに新車から一度も交換したことがないプッシュロッドも交換対象に含んでいます。吉村さんは、前回21万キロの交換時に全く摩耗がない事を確認しているので不要だと言ったのですが、ジョニーさんが今回の『ガラガラ音』が出始めるまでの距離が約3万2千キロくらいと短かったので、一度交換してみたいと言ったのをきっかけとして、大事をとって交換となりました。

 さて、今回交換された部品たちの状況はどうだったのでしょうか?

 まず、プッシュロッド先端の部品はいつも通り大きく凹み、これは予定通り要交換になります。そして、今回新車から初めての交換となるその部品が付いているプッシュロッド自体の実際の摩耗状況はどうだったのでしょう?

 結果から言えば、マイクロノギスを使用した測定数値からは全く摩耗が確認出来ない状態でした。このままエンジンオイルを定期的に交換し続ける限り、たとえ月までの距離を走ったとしても、交換は一切不要と考えられます。

 しかし、テンショナスプリングに関しては、約3万2千キロを走行して、使用限度を若干下回る108.24mmという結果になりました。少し使用限度を下回るのが早過ぎるような気もしますが、現在は10wー40のやや硬めのエンジンオイルを使用している事もあるので、次回も3万キロを目安に交換整備を計画しておきたいと思います。

 

※記事には書かれていませんが、上記のメンテナンスを実施する際は、必ず新品のシーリングワッシャが2枚(使用する場所が違うので、大きさは異なります)必要となりますので、用意を忘れないようにして下さい。

 

 次回は、バッテリー編です。

                                    管理人

(その四)に続く